車椅子の事故予防のための従業員研修|お客様が抱える不安とは?
2019.08.05店舗の安全管理ケガや足の障がいで車椅子を利用している方が店舗に来店されることがあります。車椅子をご利用のお客様が来店されたときに備えて、準備はできているでしょうか。
もしも準備不足だと、お客様が転倒してしまう、などの事故が起きてしまう可能性が考えられます。そのような事故を予防し、車椅子をご利用のお客様が安心して来店できる店舗にするには、どのような準備が必要なのでしょうか。
車椅子をご利用のお客様が抱える不安とは?
店舗での事故予防を考える前に、まずは車椅子をご利用のお客様が飲食店や商業施設を利用する際や来店前に、どのような不安を抱えていらっしゃるのかを知ることが大切です。
出入り口付近の段差
車椅子をご利用の方にとって、外出時の第一関門となるのが「段差」です。歩いて移動する際には気にもとめないような小さな段差でも、車椅子で乗り越えるのは大変なもの。
特に、出入り口付近に段差があると心理的に来店を避けてしまう方もいらっしゃるようです。
エレベーターの有無
段差よりも困難なのが、階段の昇降です。1階以外の店舗へ出掛ける場合には、エレベーターの有無は重要なポイントとなります。
スロープの傾斜
階段や段差などの不便を解消するために設置されているスロープですが、このスロープの傾斜が急だと、上がるのが困難になったり下がるときにスピードがつきすぎたりして危険です。
狭い通路
スーパーなどの売り場での不安要素といえば、通路の幅でしょう。通路が狭いと、車椅子で通ることができなかったり、棚や商品に当たってケガをしたりすることがあります。
車椅子での事故事例
上記のような状況で、段差を越えようとして転倒したり、狭い通路を通ろうとした拍子に陳列棚に衝突したりといった事故が起きることがあります。その他にも、さまざまな状況で車椅子利用中の事故が発生しています。
例として、車椅子に乗っていた70歳代の男性とその妻が大型スーパーへ来店した際に発生した事故事例をご紹介します。
店舗内のエレベーターに2人が乗ろうとした際、車椅子を押していた妻がエレベーター内に敷かれていた敷物につまずき、車椅子もバランスを崩しました。車椅子利用者の男性は元々腰や首などに不調を抱えていましたが、この事故をきっかけに症状が悪化したといいます。
車椅子で事故が起こる原因
車椅子利用中に事故が起こる原因は、大きく分けて環境要因と操作ミス、車椅子自体の3つに分類されます。
床面の状態などの環境要因
事故の発生原因として、まずは段差や傾斜、デコボコした地面などの環境要因が挙げられます。通路の狭さもここに分類されます。
本人や介助者の操作ミス
車椅子に乗っている本人や、車椅子を押す介助者の操作ミスも、事故原因のひとつです。操作に不慣れな人が介助をした場合だけでなく、車椅子に慣れているからこそのうっかりミスによって事故が起こることもあります。
車椅子の不備・故障
足置きにつまずく、ブレーキ部分に体を挟むといった軽傷のケガは多くの車椅子利用者の方が体験されているようです。
もしもブレーキの故障や車輪のパンクなどがあれば、大きな事故につながることもあるため、店舗にお客様用の車椅子を配備している場合は定期的にメンテナンスを実施する必要があります。
車椅子の事故を予防するための店舗づくり
事故が起こりにくいレイアウトを心がける
車椅子に関する事故を予防し、車椅子をご利用のお客様が来店しやすい店舗には「広い空間」が必要です。
車椅子をご利用のお客様にとって一番楽なことは、「車椅子を降りないでよい」ということです。
たとえば入店時は、車椅子を降りることなく、そのまま店舗に入ることができるのが最も楽であるといえます。そのためには、車椅子をご利用のお客様が来店された場合の動線を考えて、車椅子が通れる程度の広い通路スペースを確保しておきましょう。
従業員内の情報共有を徹底して意識を高める
次に、従業員全員が、店舗のどこに段差や階段があるのかを把握しておく必要があります。
たとえば飲食店の場合、お客様から「車椅子での来店は可能か。」という電話での事前確認が入ることもあります。そのようなときに、「〇〇部分に段差はありますが、こちらでサポートさせていただきますのでご安心ください。」などと答えられると、安心してお客様が来店することができます。
実際に来店された際にも、車椅子をご利用のお客様をしっかりとご案内できるので、転倒などの事故予防をすることができます。
普段から、どのようなお客様がいらっしゃっても万全の状態でお迎えできるよう、店舗の構造やご案内の際に注意が必要な箇所を従業員全員が理解しておきましょう
ネット上の情報を充実させてお客様に店舗内を事前把握してもらう
店舗のホームページやレビューサイト、Googleストリートビューなどに店舗の内観写真も載せることで、どのような店舗なのかをお客様が来店前に見ることができるようにしておくことも有効です。
お客様自身や同行者の方が、行く予定の店舗の構造を事前把握することで、事故を予防することもできます。
車椅子の事故を予防するためにしておきたい従業員研修
事故を予防するために、車椅子をご利用のお客様が来店されたときを想定した研修を行っておく必要があります。研修では、実際に車椅子を使用し、案内役とお客様に分かれてロールプレイングをするとよいでしょう。
事故の予防のために従業員に覚えさせておきたいことは、「ご案内時の注意点」と「車椅子を動かす方法」の2つです。
ご案内時の注意点
飲食店であればお席までのご案内、スーパーや衣料品店であれば目的の売り場までのご案内などで、従業員が車椅子を押してお客様をご案内することもあるでしょう。
まず、大前提として、ご案内をする際には従業員がしゃがんで目線の高さを合わせ、挨拶をするとともに、自分が車椅子を押してご案内する旨を伝えてください。自己紹介も行うと、より丁寧です。
立ったまま声を掛けると高圧的な印象を与えることもありますので注意しましょう。
車椅子を動かす際にはお客様に必ず声を掛けます。声掛けをせずに車椅子を押されると不安や恐怖を感じるため、「前へ進みます」「右へ曲がります」などどんな行動を取るのかをお知らせしてから、車椅子を動かすようにしてください。
車椅子を動かす方法
車椅子を動かす方法のひとつとして、段差の上がり方をご紹介します。
段差では車椅子の前輪を上げる必要があるため「前輪を上げます。」と声を掛けましょう。
次にステッピングバー(車輪の下のフレーム)の上に足を置き体重を乗せ、ハンドグリップを押し下げるようにして前輪を段に乗せます。
そして、前輪を上げたまま車椅子を押し、段差に近づきます。
後輪が段差に触れたら、前輪を段差の上に下ろし、体全体で車椅子を押し上げるようにして後輪も段差に乗せます。
これが車椅子の段差の上がり方です。事故を予防するために何度も練習を行い、しっかりと覚えるようにしましょう。
まとめ
店舗での車椅子の事故発生を防ぐために知っておきたい、事故の原因や安全な店舗づくりのコツなどをご紹介しました。
車椅子をご利用のお客様が初めて行くお店を利用する際は、「段差はあるだろうか、通路は広いだろうか」などさまざまな不安を抱えていらっしゃいます。車椅子をご利用のお客様にもお買い物やお食事を楽しんでいただけるよう、事故が起こりにくいレイアウトを意識し、従業員への研修を実施しましょう。