店舗で労災が起きたらどうすればいい?労災申請の流れなどを解説
2020.04.28店舗の安全管理職場で労働災害が起きて従業員が怪我をしてしまった際には、事実関係をしっかりと把握して労働基準監督署へ労災発生の報告を行い、労災申請の手続きを行う必要があります。
しかし、これまで労災への対応をしたことがないために「店で労災が起きたら何をすれば良いのか分からない」という店舗責任者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、労災が発生してしまった際に取るべき対応や、労災申請の流れなどを解説いたします。労災の対応について詳しく知りたい方はぜひ参考にしてください。
労災(労働災害)とは?
従業員が労務に従事したことによって怪我や病気をしたり、死亡してしまったりすることを「労働災害」といいます。省略して「労災」と呼ばれます。
職場での転倒による怪我から過労によって発症した精神的な疾病まで、さまざまなケースが労災として認められます。業務中の怪我は工場や肉体労働の現場、飲食店のキッチンなどで起こりやすいといえますが、通勤中の怪我や精神的な障害に関してはどのような職場でも起こり得るでしょう。
労災は業務上発生する可能性がある、従業員の怪我・疾病を保証するために必要な制度です。
労働災害に関する詳しい解説や予防策については こちらの記事 をご参照ください。
https://www.royal-co.net/column/store-safety-management/work-related-accident/
もしも店舗で労災が起きたら…?発生時に対処すべきこと
小売店や飲食店などの店舗でも、「台車を使用中、転倒して怪我をした」、「倉庫の荷物が雪崩を起こして下敷きになった」など、従業員が勤務中に怪我を負う確率はゼロではありません。
では、万が一労災が起きてしまった際には、店舗の経営者や責任者は具体的にどのように対処すれば良いのでしょうか。
被災者の治療が最優先
まずは被災者の救護・治療が最優先となります。必要であれば救急車を呼び、警察や労働基準監督署に連絡をして指示を仰ぎましょう。被災者が意識不明などの重体の場合は、被災者の家族への連絡も必要です。
被災者の救護にあたる際は、他の人の怪我などの二次災害などが起きないように落ち着いて対処することが重要です。二次災害の可能性が高い場合や、すでに発生している場合は、近くにいるお客様や従業員をすべて避難させます。
治療は労災指定病院で受ける
救護や応急処置をした後は、病院を受診します。このとき「労災指定病院」へ行くことをおすすめします。
労災指定病院とは、各医療機関からの申請にもとづいて労災保険側が指定した病院のことです。労災指定病院を受診すれば、医療機関で費用を支払う必要がありません。支払いが不要のためスムーズに治療を受けることができますし、労災手続きも申請用紙1枚を病院に提出するだけで済むため簡単です。
労災指定病院以外を受診した場合、治療費を10割負担で全額支払った後に申請書を作成、そして労働基準監督署に治療費を請求という手順を踏むことになります。最終的には自己負担額がゼロになるとはいえ、手続きが増える点と、一時的であっても治療費を全額しかも10割負担で支払うことになるのは、大きなデメリットといえるでしょう。
事実関係の把握と原因の調査
労災が起こった際、責任者はできる限り早い段階で「誰がいつ、どこで労災に遭ったか。なぜ労災が起こったか。関与した人や目撃者などはいるか」などの事実関係をしっかりと把握することが大切です。こうした情報は、労災の認定や職場の安全管理の捜査などに必要となります。
警察署と労働基準監督署への届け出と申請
労災が起こった際には労働基準監督署へ報告をし、保険給付を受けるための手続きを行います。書類の提出は被災者やその家族が行うこともできますが、必要な証明や添付書類が多いため、被災者の代理として会社が手続きを行うケースが多くなっています。
申請手続きに慣れていない従業員からすると、労災手続きは煩雑に思います。特に怪我や病気で療養中の従業員にとって、労災手続きは大きな負担に感じられることでしょう。そのようなときに会社がサポートをしてあげると、従業員に「会社は従業員を守っている」という姿勢を見せることができ、満足度の向上、ひいては離職率の低下にもつながります。
必要な書類や手続きの流れについては、後ほど解説いたします。
労働基準監督署などによる調査・捜査への協力
労災の認定は、被災者や関係者からの事情聴取や事故現場への立ち入り調査などの捜査を経て行われます。
また、重大な事故の場合、警察署や労働基準監督署から、業務上過失致死傷罪や労働安全衛生法違反についての捜査が入ります。現場検証などの捜査を受ける会社は、事実関係をしっかりと把握し、各種書類を揃えるとともに、できる限り事故現場の保存に努めるなど、捜査がスムーズに行えるように協力する必要があります。
不服申し立ての調整など
労災の認定は労働基準監督署が行いますが、その決定に不服があるときには、被災者やその家族は審査請求や行政訴訟によって不服申し立てを行うことができます。
さらに、会社側に不法行為などがあり、労災保険だけでは損害をカバーしきれない場合は、被災者は労災賠償裁判で賠償を求めることもできます。
労災申請の流れ
ここでは、労災申請の大まかな流れについて見ていきましょう。
指定医療機関で受診した場合
指定医療機関で受診した場合は、上述のように申請はかなりシンプルです。
1.「様式5号(療養補償給付たる療養の給付請求書)」という請求書に必要事項を記入・押印する。具体的には、災害の発生原因や発生状況や怪我の状態、および個人や会社の情報を記入します。
2.医療機関へ請求書を提出する
3.労働基準監督署の調査を受ける
4.労災の認定を受ける
指定医療機関以外で受診した場合
労災指定病院以外の医療機関で治療を受けた場合、以下のような手順が必要になります。
1.治療費を10割負担で全額支払う
2.「様式7号(療養補償給付たる療養の費用請求書)」を記入し医師の証明をもらう
3.労働基準監督署に領収書とともに請求書を提出
4.口座に治療費全額が振り込まれる
請求書の提出先が労働基準監督署になることが大きな違いです。また、手続きが増える上、治療費は一旦全額負担することになります。
労災申請の注意点
労災申請にはいくつか注意点があります。
労災申請には時効がある
労災申請をすることでさまざまな給付が受けられますが、労災は起算日(期間計算における初日)から2年ないし5年で時効となります。時効を過ぎると申請は無効となりますので、治療を受けたら速やかに申請することをおすすめします。
時効が2年の給付
・療養補償給付
・休業補償給付
・介護補償給付
・葬祭料
・二次健康診断等給付
など
時効が5年の給付
・障害補償給付
・遺族補償給付
など
会社が書類への記入を拒んでも書類提出は可能
中には、会社側が労災を認めず、手続きの代行や書類への記入を拒むケースもあります。しかし、記入を拒まれた旨を申請者が一言添えれば、会社が書くべき欄が白紙でも申請は通ります。また、最終的に労災がどうかを判断するのは労働基準監督署です。会社が労災申請書類への記入を拒んでも労災認定に影響は出ないため、労災が発生した際は必ず手続きの代行やサポートなどを行ってください。
まとめ
労災は、1人が軽い怪我を負う程度のものから数人の命が失われるものまで、さまざまなケースがあります。
被災者の治療や申請など一通りの手続きが終わった後は、必ず再発予防策を検討・実施しましょう。労災の原因をしっかりと見極め、設備や用具を改修したり、作業環境を改善したりするなど、事故が起こりにくい環境を作ることが大切です。また、作業手順を見直したり、社内で安全衛生についての講習を行ったりするなどして従業員の教育を行い、再発予防に努めることが大切です。