PL保険とは?食中毒や欠陥製品事故の賠償リスクへの対策
2021.07.29店舗の安全管理店舗経営においては、利用するお客さまを最優先に考えることが何よりも大切です。また、お客さまのために店舗が遵守すべき法に関することも、頭に入れておく必要があります。
「PL法」をはじめとする法令に則った店舗運営を円滑に行い、お客さまとの深い信頼関係を築き守るためにも重要となる保険が「PL保険」です。
この記事では、PL保険とはどのようなものなのか、加入義務はあるのかどうか、そしてどのような事故を補償できるのかについてご紹介します。
具体的な賠償事例もご紹介していますので、ぜひご一読ください。
PL保険(生産物賠償責任保険)とは
PL保険の正式な名称は「生産物賠償責任保険」といい、生産物や生産販売者が行った仕事において生じた欠陥がお客さまに損害を与えた際、賠償責任を代行してくれる保険です。
PL保険は、「PL法(製造物責任法)」に基づいて設けられている保険です。
PL法とは、製造・販売した商品・サービスの欠陥により誰かの生命や身体、財産に損害を与えてしまった場合、製造業者などが損害賠償責任を負うべきと定めた法律です。
PL法が生産物・製造物にかかわる重要な法律である以上、ものを生産・製造している企業や団体、製品やサービスの販売を行っている店舗は、PL保険への加入が必要といえます。
PL保険に加入義務はある?
PL保険は、PL法に基づいて作られた保険であるため加入しないと罰則を受けるのかと、気になる方もいるでしょう。
現状は、PL保険の加入に関する法的な義務は課せられていません。とはいえ、どんなに小さく安価な商品や安全性が確認されている商品であっても、お客さまなどに損害を与える可能性が100%ないという保証はないのです。
この事実からも、商品を生産・販売する企業や店舗にとってPL保険への加入が欠かせないことが分かります。
たとえ法的な加入義務がないとしても、製造・販売を行っている企業や店舗は、可能な限りPL保険に入っておくことが推奨されます。
PL保険の補償範囲
生産・販売した商品の欠陥によってお客さまなどに損害を与え、その製造責任を問われた場合、PL保険で補償される内容はどのようなものなのでしょうか。
ここでは、PL保険の補償範囲となる主な商品に関する事故をご紹介します。
飲食店での食中毒
飲食店などで提供された食べ物に付着していた細菌やウイルス、化学物質や寄生虫、フグなどの自然毒などによって、お客さまが食中毒を発症してしまった場合などです。
製造者や販売店での欠陥製品事故
生産・販売した製品に欠陥があり、お客さまの手に渡ってから事故を招いてしまうケースです。主な例としては、以下のような事故発生が挙げられます。
- アパレル店で、商品の衣服に針が混入したまま販売してしまい、お客さま側で怪我を負う被害が発生した
- メーカーが製造した電気製品に欠陥があり、お客さまが使用中に出火する事故が発生した
- 工事業者が排水管を工事したが、施工が不十分だったため水漏れが発生してしまった
など
商品・サービスを生産・販売する事業を行っている限り、内容や状況を問わずさまざまな事故が起こる恐れがあります。このような事故によって製造者や店舗が製造物責任を問われた場合、多額の損害賠償が発生する可能性も想定しておかなければなりません。多額の損害賠償が発生すると、経営が厳しくなることもあります。
上記のような事態の当事者となる万一の可能性を踏まえ、PL保険加入の必要性を認識しておくことが重要です。
PL法関連の賠償事例
PL法は1995年(平成7年)より施行されましたが、現在までにどのような適用例があったのでしょうか。ここでは、実際にPL法に基づき賠償が発生した事例について詳しくご紹介します。
賠償事例1:オレンジジュースの異物混入に関する事例
異物が混入したオレンジジュースを飲み、喉を負傷した人がジュースを提供したファストフード店に対して損害賠償を求めたもので、PL法を適用して損害賠償の請求が発生した国内初の事例です。
喉の負傷の事実と、その原因となった異物がジュースの製造工程において混入する可能性が否定できないと判断され、ジュースに製造物責任法における欠陥があると認められました。
この件における賠償請求額は40万円で、実際に支払われた賠償金の額は10万円となっています。
賠償事例2:料亭での食中毒事故に関する事例
料亭で調理・提供されたイシガキダイの自然毒を原因とした食中毒にかかった複数の来店客が、料亭の経営者に損害賠償を求めたものです。
この件で、食材を調理することは製造物責任法においての加工に該当し、提供された料理は加工された製造物にあたるとされました。料理に食中毒の原因があったことが製造物の欠陥にあてはまるとし、最終的に製造物責任が認められたものです。
この件での賠償請求額は総計でおよそ3,800万円、実際に支払われた賠償金の額はおよそ1,200万円でした。
PL保険ではカバーできない事故もある
店舗の経営にあたっては、PL保険への加入が必要不可欠であることが分かりました。
しかし、店舗で発生する可能性のある事故の中には、PL保険ではカバーできないものも少なくありません。PL保険の補償範囲は、あくまで生産・販売されたものが原因となって発生した事故のケースにとどまるためです。
PL保険の補償範囲外の事故に備えるため、PL保険と同時に加入が必要な保険として「施設賠償責任保険」があります。PL保険に加えて施設賠償責任保険にも加入することで、店舗内で発生する恐れのある事故の多くは、各種保険によってカバーが可能となります。
施設賠償責任保険の補償範囲となる店舗内事故には、以下のようなケースが挙げられます。
- 飲食店で店員が料理を運ぶ際お客さまとぶつかり、お客さまがやけどをしてしまった
- 棚に陳列されている商品が落下したことで、お客さまが怪我をしてしまった
- 従業員が商品運搬に使用している台車がお客さまと接触し、事故になってしまった
上記はすべて、製造・販売した商品に原因があって発生した事故ではないため、PL保険の補償対象とはなりません。しかし、施設賠償責任保険では補償される事案です。
また上記のような事故が発生した際には、損害賠償に加えて以下のような費用負担も想定されます。
- 怪我などが発生した場合の応急措置・搬送にかかった費用
- 訴訟にかかる費用
上記のような費用負担に関しても、施設賠償責任保険の補償対象となります。また特約次第では、通常の内容以上の補償を受けられる場合もあります。
PL保険への加入は必要なものですが、PL保険の補償外となる事故も店舗内では発生する可能性があります。それを踏まえ、PL保険と同様に施設賠償責任保険にも必ず加入しましょう。
施設賠償責任保険に関しては、以下の記事でさらに詳しくご説明しています。ぜひご参照くださいませ。
まとめ
この記事では、PL法とPL保険について概要をご説明し、店舗での事故に備えてPL保険に加入することの重要性をご紹介しました。
PL保険は、製造・販売において生じた欠陥がお客さまに損害を与えた際、賠償責任を代行してくれる保険のことです。
万一、生産・販売した製品に欠陥があり、事故を起こしてしまった場合、補償してくれます。現在は、加入義務が設けられていませんが、飲食店や製造会社は加入しておくと安心です。
とはいえ、多くの事故は、対策によって未然に防ぐことも可能です。たとえ保険に入っていても、そもそも事故を起こさないことがもっとも大切であると認識しておきましょう。
店舗内の安全を守るには事故防止のための対策と、保険加入をセットにするという意識で臨むことが重要です。事故発生のリスクを常に想定しながら、事故のない安全な店舗作りのため継続的な取り組みを行っていきましょう。