防火設備と特定防火設備とは?防火管理者資格の取得方法と設備点検のポイント
2019.11.11店舗の安全管理店舗にとって、「火災」は最も避けたい災害です。特に調理時に火を使う飲食店には、火災のリスクはつきもの。もしものときは多大な損害が生じ、従業員やお客様の命にもかかわる重大な災害となりかねません。そのため、すべての店舗で火災を予防するための備えが求められています。
以下では、火災に備えた防火設備や防火業務の指示を行う防火管理者についてご紹介します。
防火設備とは
防火設備とは、火災が発生した際に延焼(炎が回ること)を防ぐための設備のことで、具体的には防火戸(防火扉)、防火シャッターなどを指します。
防火設備は、建物の外壁や開口部など延焼のリスクが考えられる部分に設置され、建築基準法により火災が起こった場合に20分以上炎に耐えられる性能(20分耐火)を有していることが必要です。
複合防火設備とは
複合防火設備とは、20分以上炎に耐えられる性能に加えて遮煙性能も有する、エレベーター前の設備のことを指します。
防火と防煙は別の機能のため、防火はできても防煙はできない設備もあります。防煙区画には、防煙性能も併せ持つ防火設備を導入することが望ましいでしょう。
特定防火設備とは
特定防火設備とは、火災が起きた際に1時間以上炎に耐えられる性能(1時間耐火)を持つ防火設備のことです。一般的には、耐火20分の防火設備よりも耐火1時間の特定防火設備の方が多く導入されています。
特定防火設備には以下のような種類があります。
常時閉鎖型防火戸
常閉防火戸とも呼ばれ、基本的には手動で開かない限りは常に閉じている状態の防火戸です。安価に設置できることがメリットですが、通行の際には逐一手動で開ける必要があることから、近年では設置数が少なくなってきています。
随時閉鎖型防火戸
常閉防火戸とは対照的に、普段は壁などに収納されていて、火災発生時には煙を検知することで閉まる仕組みの防火戸です。コストが高くなる点がデメリットではありますが、平常時に通路の妨げとならない点は大きなメリットといえます。
上記2種類の他にも、火災時に天井部分から降りてくるタイプの防火シャッターや防火スクリーンなどもあります。
防火管理者とは?
消防法では、店舗の収容人数が30人以上の場合は防火管理者が必要だと定められています。
収容人数には従業員も含まれます。仮に客席が25席でも従業員が5人いれば30人以上となるので、防火管理者の資格取得者を選出し、開業時に消防署に届け出る必要があります。
この防火管理者は防火業務の指示を出す立場なので、アルバイトスタッフなどはふさわしくありません。
防火管理者には店舗の延べ面積によって2種類あり、300㎡未満の場合は「乙種」防火管理者、300㎡以上の場合は「甲種」防火管理者となります。
防火管理者資格を取得する方法
防火管理者になるためには、以下の4つの方法のうちどれかで資格を取得する必要があります。
1.講習を受講して試験に合格する
都道府県知事や消防長、防災協会などが主催する防火管理者講習を受けて取得する方法です。講習期間は1~2日で、別途受講料が必要となります。
防火管理者講習には次の3種類があります。
甲種防火管理新規講習
甲種防火管理者の資格を取得する講習。2日間にわたり、約10時間の講習を受ける。
乙種防火管理講習
乙種防火管理者の資格を取得する講習。1日で約5時間の講習を受ける。
甲種防火管理再講習
甲種防火管理者として選任されている人が、再度受ける講習。半日で約2時間の講習を受ける。
2.教育機関で防災について学び、1年以上実務経験を積む
大学、短期大学、高等専門学校などで防災に関する学科・課程を修了した上で、1年以上の防火管理の実務経験がある場合には、講習が免除され防火管理者資格を取得することができます。
3.消防職員として1年以上管理職などに就く
市町村の消防署に勤めていて、1年以上管理的な職や監督的な職に就いていた経験がある場合にも講習が免除され、防火管理者資格を取得することができます。
4.一定の学職経験を積む
また、以下の8項目のうちどれかを満たしていれば防火管理者資格を取得することが可能です。
1.労働安全衛生法第11条第1項に規定する安全管理者として選任された者
2.防火対象物点検資格者講習の課程を修了し、免状の交付を受けているもの
3.危険物保安監督者として選任された者で、甲種危険物取扱者免状の交付を受けているもの
4.鉱山保安法第22条第3項の規定により保安管理者又は保安統括者として選任された者
5.国若しくは都道府県の消防の事務に従事する職員で、1年以上管理的又は監督的な職にあった者
6.警察官又はこれに準ずる警察職員で、3年以上管理的又は監督的な職にあった者
7.建築主事又は一級建築士の資格を有する者で、1年以上防火管理の実務経験を有するもの
8.市町村の消防団員で、3年以上管理的又は監督的な職にあった者
飲食店での火災を予防するための設備点検のポイント
飲食店における火災の多くは、店舗内の調理設備や排煙ダクトなどに原因があります。調理設備の間違った使い方や設備の点検・清掃不足など、ちょっとした油断が火災という大災害につながってしまうのです。
排煙ダクトの適切な維持管理
不燃材料でできている排煙ダクトは、延焼しないと思われがちです。しかし、日々の点検・清掃を怠るとダクトに油脂が溜まり、火の付いた油分が吸い込まれて引火し、天井に延焼する場合があります。
防火ダンパーのメンテナンス
消防法では、排気ダクトの入口付近に煙や炎を遮断する防火ダンパーの設置を義務付けています。この防火ダンパーも、放っておくと油脂が溜まって延焼の原因となるため、定期的なメンテナンスが重要です。
防火装置付きの業務用厨房機器の採用
火力や耐久性が重視される業務用厨房機器は防火装置のないシンプルなものが主流でしたが、近年では「コンロの立ち消え予防装置」や「フライヤーの過熱予防装置」など防火機能が付いた機器が販売されています。
店内の消火設備
消防法では消火設備の設置に加えて、火災報知機や煙感知器、ガス漏れ感知装置などの店内への設置が義務付けられています。また、飲食店を含む特定防火対象物では、6カ月に1回の消火用設備の機器点検、1年に1回の総合点検の実施が定められています。
従業員への周知
アルバイトの比率が高い飲食店では、従業員への周知が大切です。「火を使っているときは火元から離れない」「火元の近くには可燃物を置かない」など、基本的なことを日ごろから徹底します。
災害は起きてしまってからでは取り返しがつきません。火災を未然に予防するために、すべての従業員が高い防火意識を持つよう努めるべきです。
まとめ
甚大な被害を与えかねない店舗での火災。気を付けてはいても、ふとしたことが原因で起こるかもしれませんし、周辺の建物で火災が起きて燃え広がる可能性もあります。
万が一のことを考えて被害を最小限に抑えるためには、適切な防火設備の設置や設備点検、未然に防ぐための対策などについて普段から考えておくことが重要です。
防火設備の設置や定期的な設備点検を万全に行い、安全な店舗づくりに努めましょう。