ヒヤリハットとは?よくある事例や対策について解説
2021.11.25店舗の安全管理職場の安全を守り、重大な事故を防止するには、ヒヤリハットに適切に対処していくことが重要です。ヒヤリハットは誰にでも日々起こりうることですが、その内容の軽微さから、うやむやにされたり、その場限りの問題として処理されたりすることも少なくありません。
今回は、そもそも「ヒヤリハット」とは何かを説明したうえで、具体的な事例や対策について解説します。事故予防と職場環境の改善をするために、組織全体でヒヤリハットの重要性を認識し、対策していきましょう。
ヒヤリハットとは
「ヒヤリハット」とは、「ヒヤリ」としたり「ハッ」としたりするものの、事故やケガには至らなかった事象を指します。ここでは、ヒヤリハットの重要性の根拠となっている「ハインリッヒの法則」と、ヒヤリハットが起こる原因について説明します。
ハインリッヒの法則
ヒヤリハットへの対処が重要である根拠として、「ハインリッヒの法則」が挙げられます。ハインリッヒの法則とは、アメリカの安全技師ハーバート・ウィリアム・ハインリッヒが、数千件の災害事故を統計的に調査した結果、導き出した以下の法則です。
「1件の重大な事故の陰には29件の軽微な事故があり、さらにその陰には300件の事故直前の案件がある」
この内容から、「1:29:300の法則」とも呼ばれています。このうち、事故に至っていない300の事象がいわゆるヒヤリハットです。重要なインシデントの陰には大量の事故に至らなかった事案がある、というこの法則は、世界中の労働現場における安全対策に活用されています。
ヒヤリハットが発生する原因
ヒヤリハットが発生する原因は特別なものではなく、日常に潜んでいます。その多くが個人の単なる不注意や確認不足、事前の準備不足やルール違反などで、どこでも誰にでも起こりうることです。
また、人為的なミスだけでなく、マニュアルの不備・錯覚や、環境不備、環境の問題による個人の疲労などが原因になっていることもあります。そのためヒヤリハットは、初心者・ベテランに限らず発生する可能性があるといえます。
よくあるヒヤリハット事例
ここでは日常生活や職場のなかで起こる可能性がある、ヒヤリハットの事例について紹介します。
仕事中のヒヤリハット事例
職場でのヒヤリハットは工事現場や製造業だけでなく、小売業や接客業、オフィスワークなどでも起こる可能性があります。
・事例1「高い位置にあるものを取ろうとした際に、不安定な椅子を使用して転倒しそうになった」
適切な備品(留め具付きの脚立など)の使用を怠り、手近な椅子で代用しようとしたことによるヒヤリハット事例です。大きな荷物は高い場所に置かない、などの対策も考えられます。
・事例2「休憩室内を歩行中に荷物に足をとられ、転倒しそうになった」
従業員の導線と重なる場所に、荷物を置いていたことによって起こるヒヤリハット事例です。荷物を置くなどの一時的な行動であっても、場合によっては事故につながる可能性があります。
・事例3「在庫確認をするためにバックヤードへ向かう最中に、通路の角でお客様とぶつかりそうになった」
職場の忙しい時間帯にこそ、ヒヤリハットは起こりやすくなります。急ぎの仕事があるときほど、安全への注意が必要といえます。
日常生活のヒヤリハット事例
日常生活のなかのヒヤリハット事例には、以下のようなものがあります。
・事例1「ベランダの鍵がかかっておらず、幼児が1人で出て遊んでいた」
目の届かない場所での転倒や、最悪の場合はベランダの柵を乗り越える可能性もあるヒヤリハット事例です。
・事例2「鍋に火をかけた状態でその場を離れ、そのまましばらく忘れていた」
加熱のし過ぎによる発火や、火事につながる可能性のあるヒヤリハット事例です。
・事例3「急いでいて靴のかかとを踏んだまま歩きだし、転びそうになった」
転倒する場所によっては、大怪我にもつながる可能性があるヒヤリハット事例です。
ヒヤリハットを防ぐための対策
ヒヤリハットを防ぐことで、その結果起こる軽微な事故や重大事故の防止につながります。ヒヤリハットの防止には個人の努力に頼るのではなく、組織的な仕組みを作って対策することが重要です。ここからは、ヒヤリハットを防ぐために、職場全体で取り組むべき対策について説明します。
5Sを徹底する
5Sとは「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾(しつけ)」のことで、頭文字がSである言葉を総称したものです。具体的には、以下が5Sの各内容となります。
・整理=必要なものと不要なものを分類し、不要なものについては処分する
・整頓=必要なものをすぐ取り出せる状態に整える
・清掃=常にきれいな環境を維持する、環境を維持できる仕組みを作る
・清潔=整理・整頓・清潔の3拍子が維持され、標準化されている状態
・躾(しつけ)=清潔な状態が当たり前になっている状態
5Sは、日本で生まれた考え方です。個人の努力に頼るのではなく、いつでも誰でも再現できる仕組みを作って、組織全体で徹底して取り組む姿勢を大事にしています。5Sをもとに、当たり前のことを当たり前に行うことが職場改善につながるとされ、今では世界中の労働環境で活用されています。
5Sを徹底することで、職場環境が安全で快適になるだけでなく、仕事の効率化にもつながるでしょう。
KYT(危険予知トレーニング)を実施する
職場環境を安全なものにするために重要なのが危険予知トレーニングです。危険予知トレーニングは、危険(Kiken)、予知(Yochi)、トレーニング(Traning)の頭文字を取ってKYTとも呼ばれています。
危険予知トレーニングの手法にはいくつかあり、なかでも問題解決を4つのラウンドに分けてチームで段階的に分析する「4ラウンド法」はよく用いられている手法です。
4ラウンド法の概要
イラストで描かれた職場状況を見て、このなかにどのような危険が潜んでいるか、チームで話し合いを進めていく手法です。話し合いは、以下の4つのラウンドに分けて段階的に進めます。
1.現状把握(どのような危険が潜んでいるか)
2.本質追求(危険のポイントはどこか)
3.対策樹立(あなたならどうする)
4.目標設定(私たちはこうする)
危険予知訓練によって実践的な目標を設定し、実際の現場に取り入れていくことで、労働災害の防止につなげましょう。
ヒヤリハット報告を定着させる
ヒヤリハットが起こったときにその場だけの問題として処理せず、職場全体で共有するためには、ヒヤリハットの報告を定着させることが必要です。そのためには「ヒヤリハット報告書」を導入しましょう。
ヒヤリハット報告書は大変重要な施策で、書き方や運用のコツがあります。
ヒヤリハット報告書の書き方
ここからは、ヒヤリハット報告書の基本項目などの書き方と、報告する際のポイントについて解説します。
ヒヤリハット報告書の基本項目
ヒヤリハット報告書のフォーマットは職場ごとに異なり、決まった形式はありません。共通していえることとして、5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どうする)がわかるような項目は必ず入れるようにしてください。
例えば、以下のような項目を盛り込みます。
・報告者名
・発生日時
・発生場所
・発生したときの作業内容
・事象が発生した原因
・必要と思われる対応策
ヒヤリハット報告書を書く際のポイント
ヒヤリハット報告書を作成する際は、誰にでも事例の内容が伝わるように、わかりやすく記載することが重要です。必要に応じて箇条書きを取り入れるなどして、簡潔に書きましょう。
また、できる限り個人の主観を交えずに、客観的な事実に基づいて記載します。推測したことを書く際は、それが個人の推測であることがわかるように記載しましょう。報告書は関連部署や第三者が閲覧する可能性もあるため、専門用語や一部でしか通用しない用語は使わず、できるだけ一般的な表現を意識することも大切です。
ヒヤリハット報告書は、事例発生後できるだけ速やかに記入しましょう。できれば、報告事例が発生した当日中に書くのが理想です。
まとめ
重大事故の原因となるヒヤリハットは、いつでも誰にでも起こりえます。ヒヤリハットは職場環境やルールの不備などが原因であることも多く、その場限りの問題として処理していると、いつか重大な事故に発展する可能性があるでしょう。
ヒヤリハットが起こった際に「大きな事故にならなくて良かった」と安心するだけではなく、小さなことでも職場で共有し、再発防止に組織全体で取り組むことが大事です。
ヒヤリハット報告の重要性や、報告を職場に定着させるための工夫については以下の記事で詳しくご紹介しています。ぜひ併せてご覧ください。